福士則夫のチビテッラ日記〜第7回〜

●第7回「スーパーマーケットを横目に」

7月2日(水)、車で1時間ほど駆けスポレートという古い城がある街に出掛けた。ここにも美しいカテドラルがあるが辿り着くまでかなりの急勾配。さらに丘の頂上に古い要塞があり30度を越す炎天下で地獄の責め苦であったが、我々の世話をしてくれるインターンの二人の若い女性、タラとブリアナは城砦の突端まで走っていってワーワーキャーキャーさすがに世代が違う。

Rocca Albornoziana

Rocca Albornoziana

音楽祭が行われている城の中庭

音楽祭が行われている城の中庭

かなり剥落した壁画のある回廊の中庭ではコンサートが毎晩行われているそうである。スポレートの町はジャン・カルロ・メノッティが始めた音楽祭で有名らしく音楽だけでなく絵画、演劇、映画、ダンスなどが7月13日まで毎日行われている。2階の回廊には古い水道橋のフレスコ画が描かれていたが、城塞の裏手を散策すると絵のままの14世紀に建造された石造りのローマ水道橋の景観が眼下に広がっていたのは感動ものだった。今や名画はルーブルに行かなくても東京で鑑賞する事も出来るわけで、様々な国宝級の美術品が空を飛び交っている時代であるが、そこにわざわざ足を運ばなければ立ち合えない人間の偉業を目の当たりにして思わず暑さを忘れる。大通りから横道に入った角の小さなレストランで昼食。オリーブオイルをかけて焼いたパンと鱒とデザートにゴルゴンゾーラ。隣に座ったダーラと全て半分ずつ。おいしうそに焼けた鱒が来た時、シューベルトの「鱒」を口ずさんだら一つ隣のジョーが美声で一緒に歌ってくれた。この街もロマネスクとルネッサンス様式が重なったカテドラルがあるが、その中室を飾っているドームの絵画はスペッロの教会と比べると時代が下っているせいか装飾的で、というよりも教条的でどうにも好きになれない。

城塞の裏手にあるローマ水道

城塞の裏手にあるローマ水道

帰路は急いでいたのか、タラが運転するフィアットはわが町ウンブリチッドにあるスーパーマーケットCOOPに寄らず城へとまっしぐら。明日の朝パンがないのにー!!部屋に戻って今度の買出しはいつ、と早速辞書で確認。3日(木)は中国人のインスタレーション作家、モモのプレゼンテーション、香港で活躍中とか。内容は蟻を扱った映像である。砂糖に群がって動いている蟻と、掃除機から出したダストがズームアップしていくと固まった蟻の集団になっていて、その真逆がメッセージとしてかなり面白かった。

音楽作品でもマクロ側からミクロ側へズームすると同じ音響素材が変容していく事象、そのプロセスを観察するアイディアは作曲上でも有効かもしれない。自分の気持ちが彼女に伝えられず歯がゆかった。

★次回第8回「陶器の町デルータと城壁の町モントーネ」予告

7月11日(金)、今日は朝9時に出発し、わが町ウンブリッチッドからそれほど遠くない陶器の町デルータに遠足。途中SANTUARIO教会に寄る。ジェシカの説明によると16、7世紀、人が事故や若くして亡くなった折、そのことを陶板に描いて教会に奉納し祈る伝統があるとか…

更新は9月21日(水)です。お楽しみに!

ISCM韓国支部より作曲コンクールのお知らせ

ISCM韓国支部より作曲コンクールのお知らせが届きましたので要項を掲載致します。

LEE Sang-geun Competition要項

「ROSCO10周年記念リサイタル」を聴いて

正会員:深澤倫子

ROSCO 10周年リサイタルチラシ

ROSCO 10周年リサイタルチラシ

私が初めてROSCOの演奏を聴いたのは、2006年のデュオコンサートの時だった。

その時、かなり難しい作品もあったと思うが、音をごまかす事なく、また書いてある楽譜を必死で追った感じもなく、サラッとしっかりとした演奏の印象があった。

そして、この度改めてROSCOの演奏の質の高さを再認識した。さらに磨きがかかり、しなやかさと瞬発力を兼ね備えた演奏で、各作品の特徴を引出し、最後まで飽きる事なく楽しめた。

作品の持つ強いエネルギーが、お2人の演奏を通して所々に溢れ、それが彼女達の可憐な風貌とコントラストを作り、作品がより一層魅力的になったのは言うまでもない。

さらに10年後、20年後のROSCOの演奏会が今から楽しみだ。(2011年8月8日/東京オペラシティリサイタルホール)

 

ROSCO(ロスコ):甲斐史子(かいふみこ/ヴァイオリン)大須賀かおり(おおすがかおり/ピアノ)
桐朋学園大学在学中より活動をはじめ、2001年8月デュオを結成。2002年、日本現代音楽協会主催による「第5回現代音楽演奏コンクール“競楽V”」優勝。第12回朝日現代音楽賞受賞。2003年〈現音・秋の音楽展2003〉において受賞記念リサイタルを開催。http://www18.ocn.ne.jp/~rosco/

福士則夫のチビテッラ日記〜第6回〜

●第6回「プレゼンテーションが始まる」

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

夕食前、今日から始まるプレゼンテーションは午後5時半から。持ち時間は一時間でまずはテカテカ頭の作家、セルジオが一番手となる。45分ほどスペイン語の朗読があり、訳文はプロジェクターで英語。始まる前にフランス語でないのでごめんと言ってくれる律儀な性格だが、謝られるほどの語学力がこちらにないので気が引ける。プレゼン前後に近隣からやって来る招待者も参加してのレセプションに長居はせず、ワインとツマミだけはいただいて当然自室に引きこもる。

夕食は時として豪華版の場合もあるが大体はバイキング方式で食後の歓談に付き合わない時は、恐ろしく長い夕暮れ時を迎える事になる。最初は時間をもて余していたが近頃は持参したMDでヨーヨー・マのバッハ無伴奏を聴いたり、洗濯したりワードで原稿を書いたりデジカメで撮った小旅行の写真をPC上で整理したり、する事はいくらでもあるが、今日の特記事項はなんと言っても頼んでおいた携帯の海外用アダプターが届いたことである。早速充電しカミさんと次女の声を久しぶりに聞く。

東京藝術大学で26日にあったフンメルのファゴットコンツェルトは上手く演奏できたらしい。離日する前、作曲家の北爪道夫君に娘がモーニングコンサートに出ることを話したので家族で芸大奏楽堂に聴きに行ってくれたとか、感謝である。今日、ローマ在住のピアニスト藤谷奈穂美さんに電話をするとローマは35度まで気温が上昇しているとか、この丘の上の森に囲まれている城でも暑いわけである。今は亡きイタリアの作曲家ドナトーニの弟子であった杉山洋一君から紹介された藤谷さんとは面識がなかったが、プレゼンテーションの時に通訳をお願いできないか日本にいる時からメールをやり取りした方である。

そもそも、この城で60日間の滞在中、唯一の義務が自作に関してのプレゼンテーションである。事前に英語の原稿を用意し、自作品の音源とDVDで何とか乗り切る事を考えているのだが、それでも通訳は必要になるだろう。英語の書類に関しては壬生千恵子さんに随分とお世話になった。今回ラニエリ財団の招聘に関わる翻訳から書類作成、連絡全てにわたってお世話になっている壬生さんとは2年にわたってのお付き合いになる。彼女とは2001年、日本現代音楽協会の主催による横浜で開催されたISCM世界大会で事務局長をしていた折、プログラム制作ほか外国とのやり取りで日本現代音楽協会に大きく貢献していただいた。今回の件は本来昨年に参加の予定が、作曲コンクールの審査期間にかぶってしまいキャンセルしたので2年越しになるわけで、壬生さんの方に足を向けて寝られない。

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

城の中庭に巨大な北斗七星が瞬き始める頃、腰の上まである足高のベッドに這い登り成田空港の本屋で買った半藤一利、江坂彰共著「日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか」を読んでいるが、これが結構面白い。第二次大戦の失敗と企業リーダーの問題が鏡のようになって語られている。自分は果たして歴史に学んだろうか?

★次回第7回「スーパーマーケットを横目に」予告

7月2日(水)、車で1時間ほど駆けスポレートという古い城がある街に出掛けた。ここにも美しいカテドラルがあるが辿り着くまでかなりの急勾配。さらに丘の頂上に古い要塞があり30度を越す炎天下で地獄の責め苦であったが、我々の世話をしてくれるインターンの二人の若い女性、タラとブリアナは城砦の突端まで走っていってワーワーキャーキャーさすがに世代が違う…

更新は9月14日(水)です。お楽しみに!

福士則夫のチビテッラ日記〜第5回〜

●第5回「招待された仲間たち」

ベーゼンが有るサロンホール

ベーゼンが有るサロンホール

自分に与えられた部屋は城の2階にあり、50人は入るかと思われるサロン風の部屋には古いベーゼンドルファーが片隅にチョコン。壁には200号大の王様とその家族と思われる古い肖像画が8枚飾られ、絵の間を埋めるように11の肘掛椅子が並んでいる。自分専用の仕事部屋なのだが余りにも広すぎて集中できず、この部屋は音の確認のみの使用で、書くのはもっぱら中二階の小部屋というのが、すっかり自宅の日常生活が投影されてしまって物悲しい。居間とバス・トイレがサロンホールの隣にあり、ここもかなりの広さである。居間とホールは日本なら二階建てになりそうな天井の高さで壁も真っ白な漆喰である。

デーヴィーともう一人、アメリカ国内でツアーもしているらしいおばちゃん、ベスの二人のアメリカ人作曲家は城に近い一軒家が与えられ、彼らは電子機器を駆使して作曲しているらしい。他に城以外の家が与えられているのは、時々フランス語と日本語の単語が出てくる例のダーラともう一人はイギリス人の詩人ジョー。さて問題の昼、夜の食事である。どちらも庭先に設営された大きなテントの下で食べるのだが昼食は1時から、夕食は7時半からと決められていてベジタリアンのイタリアの絵描き、サンドラ以外は皆時間に忠実である。昼は屋内食堂の机に3段重ねのコッヘルが用意され、大皿の上にある色とりどりの果物と2,3種類のパンは食べ放題。座る場所は自由であるが車の話で盛り上がるダーラが隣に座ることが多いだろうか。

涼しい風に吹かれながらテントの下でディナー

涼しい風に吹かれながらテントの下でディナー

ここの住人になってしばらく経ってからと思うが、ダーラの持っている古いリコーカメラの何箇所かに紙のようなものが付着していて、それは何だと聞いたらビスやネジの代わりに紙テープを貼ってあるとの答えに思わず笑い転げたら、アメリカ人の小説家ジェシカが「ノリオが初めて笑った」と大きな身体をゆすっていた。彼女とは幸運にもフランス語でおしゃべり出来る仲間である。もう一人話しかけてくれるのは、現在ニューヨーク在住のアルゼンチンの作家セルジオ。皆が食事のあとの果物を頬張っている間に席を立ち、コッヘルとナイフ・フォークを洗い終わるや否や、すぐさまアビヤントゥー。挨拶だけは皆フランス語で返してくれる。城の居間に戻ってから一人で紅茶を入れしばしの休息。昨年から水彩を始めたのだがここにきて3枚目の絵が今日でようやく終わった。全て部屋から描いた城の一部分なのでそろそろ絵が窒息しそうである、次回は外に出掛けてみよう。

午後はナイジェリアの作家チカやダーラと卓球をしたり、夜はセルジオ、デーヴィー、ダーラとビリヤードやカードやアルファベットで単語を作るための駒を集めるゲームをしたり様々な遊びで暇つぶしをしているが皆、何故か真剣である。涼しい風が城の南北に吹き抜けていく午前と異なり、風がパタリとやんでしまう午後は日差しがかなりきつく、シエスタという昼休みが何故必要か、ここにいると実感できる。

グラスを傾けながら興ずるビリヤード台

グラスを傾けながら興ずるビリヤード台

★次回第6回「プレゼンテーションが始まる」予告

夕食前、今日から始まるプレゼンテーションは午後5時半から。持ち時間は一時間でまずはテカテカ頭の作家、セルジオが一番手となる。45分ほどスペイン語の朗読があり、訳文はプロジェクターで英語。始まる前にフランス語でないのでごめんと言ってくれる律儀な性格だが、謝られるほどの語学力がこちらにないので気が引ける…

更新は9月7日(水)です。お楽しみに!