第37回現音作曲新人賞受賞の言葉〜根岸宏輔

この度、第37回現音作曲新人賞を受賞しました根岸宏輔と申します。

今回、音楽として未熟な作品であるにもかかわらず、フルートの多久潤一朗さん、クラリネットの菊地秀夫さん、ヴィオラの甲斐史子さんという豪華な演奏家によって、東京オペラシティという素晴らしいホールで拙作を演奏していただけたこと、そして何より新人賞・聴衆賞をいただけたことを、とても嬉しく思います。

この作品を作曲する際、音の微細な動きと少ない音数の中で素敵に響くよう常に心掛け、それでいて容易に掴み取ることの出来ないような繊細な音の世界を表現できるよう努めました。一人の作曲家として、自分にしか表現できない音楽を作曲することが目標であり、今回の機会は、その目標の実現のためには非常に重要なものであったと感じます。

リハーサルの段階では、演奏家を記譜の中に拘束しようとしていましたが、コンサート当日での自由で洗練された演奏には圧巻の表現力と説得力があり、演奏時間十数分の間、思わず呼吸を忘れる程聴き入ってしまいました。まさに「自分よりも自分の作品を理解している演奏家」を見たような初めての感覚でした。それと同時に、自分の記譜能力の低さを痛感しました。そういった無責任な書法であっても、一つの芸術作品として完成させてくださった演奏家の方々には頭が上がりません。

それらの体験を含め、実際に演奏されることで、学べるものや得られるものの多さを改めて認識することが出来ました。

また、自分以外の入選者の方々の作品を間近で聴き、いくつか譜面を見せていただけたことで、自分には生み出せない音が多く見受けられ、とても勉強になりました。そういった機会をいただけたことも、非常に有り難く思います。

今日のように、開催が危ぶまれるような情勢であっても、新しい音楽が生み出され、演奏されるということは、現代音楽の発展や若い作曲家の成長という側面において素晴らしいことであると身をもって感じました。そこにはやはりコンサート運営関係者の、徹底した配慮が必要不可欠であり、そういった方々の慎重な対応の下で、実際にコンサートが開催され、作品を演奏していただけました。拙作に関わってくださった全ての方々に感謝しております。

今後も音楽活動を続けていこうという自信になりました。

ありがとうございました。

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