フォーラム・コンサート第1夜のプログラム・ノート

フォーラム・コンサート第1夜 (11月24日)  出品作曲家プログラム・ノート

フォーラム・コンサート出品作のプログラム・ノートを先行公開します。
作曲者によっては追加メッセージもあります。

「作品について」をお読みになると、聴く前から曲のイメージが膨らむのでは。
11月24日には、これらのメッセージが実際にどのように音像化されているかを確かめに、
是非とも東京オペラシティリサイタルホールまで足をお運びください。

①  河野敦朗
scenes
(作曲2022年  初演)

◎作品について
曲名のscenesは、「光景」の意味。音楽でも芸術でも自然でもなく、豊かな、未知の、よろこばしい何か、、、、

◎作曲者プロフィール
東京生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。長谷川良夫、南弘明、中村茂隆、北村昭、各氏に師事。
在学中より作品を発表し、卒業後、現音その他で新作の発表を続ける。大分県立芸術文化短期大学名誉教授。大阪府高槻市在住。

 

②  田口雅英
チェロ独奏の為の「浄瑠璃」
(作曲2022年  初演)

TAGUCHI Motohide
”Joruri” for Violoncello sol

◎作品について
 浄瑠璃とは、三味線を伴奏として台詞や旋律に乗せて物語を語っていく音楽の総称である。その原型は室町時代に成立したが、江戸時代に入って本格的に発展した。大阪で文楽とともに発展した義太夫節の他、江戸で歌舞伎とともに発展した常磐津節、清元節、舞台と離れて伝承された河東節、一中節、新内節などの他、現在では長唄の演奏家によって伝承されている大薩摩節など、多種多様なものが現在も演奏されている。

 義太夫の場合は低音が魅力的な太棹三味線、その他はより音域の高い中棹や細棹が用いられる。

 この曲は、伝統的な素材を模倣した部分とそこからの様々な逸脱や変形の組み合わせからなっており、浄瑠璃の音楽の要素を現代的な手法で素材化・再構成することを試みた。
 チェロと同様に低音域に魅力のある太棹三味線を用いる義太夫節の三味線の手や太夫の語りに主な着想を得ているが、上記のような他の様々な浄瑠璃にも影響を受けている。短い小品ではあるが、お楽しみ頂けたら幸いである。

 初演を引き受けて下さったチェロの北嶋愛季氏に、心から感謝致します。

作曲者プロフィール
松永通温・松尾祐孝・早川和子の各氏に師事。1999年第16回現音作曲新人賞に入選し、作曲活動を始める。日本やアジアの伝統音楽の要素を自作品に反映させることに興味があり、伝統音楽の構造の応用や、儀礼的要素の導入等、様々な手法を試みている。

◎追加アピール文
今年は、竹本義太夫の芸の系統を受け継ぐ「文楽座」が明治5年(1872)に正式に成立してちょうど150年目に当たる。というわけで、何か文楽に関係ある作品を書きたいと思っていた。
 色々な葛藤の後、単純な形式による小品が出来上がった。故黛敏郎氏の「文楽」には遠く及ばない拙い作品だが、私なりに「文楽」「浄瑠璃」といった素材に向き合ってみたものである。
 少しでもお楽しみ頂けたら幸いである。

 

③  平良伊津美
Affectus Ⅴ ~バスフルートとクラシックギターのための~
(作曲2022年  初演)

Taira Itsumi
Affection Ⅴ ~for Bass flute and classical Guitar

◎作品について
”Affectus” とは、ラテン語で「情緒」という意味です。
今回は、バスフルートを用い、合わせの楽器に、クラシックギターを選びました。
絶妙な音質、音量バランスで見事なアンサンブルに仕上がったと思います。
今作品は、フーガを多く用い、ある意味古典的な作品になりました。
また、特殊奏法も多く使い、引き締まった作品になりました。
演奏してくださった、大野和子さん、山田岳さんには、心から感謝いたします。

◎作曲者プロフィール
静岡大学教育学部音楽科卒業、東京芸術大学音楽学部別科作曲専修修了。
第11回埼玉県新人演奏会作曲部門入賞。第12回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第3位受賞。
ピアノ連弾曲「小さな動物の森」出版。後進の育成に当たる。

 

④  浅野藤也
フルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための音楽
作曲2022年年/初演

ASANO Fujiya
Music for flute,clarinet,violin,violoncello,and pian

◎作品について
それぞれの楽器が対立することなく、それぞれの歌を歌いながらお互いに寄り添うように、溶け合うようなアンサンブルになるように心がけながら作曲した。日本の伝統音楽が参考になっている。

◎作曲者プロフィール
作曲を浦田健次郎、ピアノを故庄子みどりの各氏に師事。2006年第17回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門入選、2008年第12回日本の音楽展•作曲賞入選、2009年第14回東京国際室内楽作曲コンクール第3位。2012年東アジアの現代音楽祭inヒロシマ、2014年東アジア音楽祭inヒロシマに参加。2020年2月OM-2公演舞台音楽を担当。

 

⑤  二宮毅
三瀬川
(作曲2022年 初演)

NINOMIYA Tsuyoshi
Cross the River for Harp solo

◎作品について
「三瀬川」は三途の川の別称。時に「葬頭河(そうずか)」「渡り川」とも称する。亡き人が冥土へと渡るために越えなければならぬ川とされ、彼岸と此岸とを隔てる。緩急の異なる三つの瀬があり、生前になした行為によって渡る場所が異なることから、名称に「三」の文字が含まれる。『源氏物語』三十一帖〈真木柱〉の連歌にも詠まれ、人が古くから死後の道行きへすら関心を持たざるを得ないことを思わされる。このコロナ禍において、つかの間の不通のはずが思いがけず永久の離別となり、その見送りすら適わぬものが相次いだ。それは送る者のみならず旅立つ者にもまた同じであったのかとも思う。こうしたことの自身の身近な知人への送りの音楽として、この作品を編むに至った。

◎作曲者プロフィール
1972年生まれ。笹川賞(合唱)、名古屋文化振興賞(室内楽)、東アジア国際作曲コンクール(オルガン作品)入賞。日本の古典文学や伝統芸術に宿る情緒性を反映した作品は、アジア及びヨーロッパ各地の音楽祭に招かれ演奏、録音される。最近作にマドリガーレ・オペラ《土方歳三最後の戦い》《北海道開拓使》、クラリネット協奏曲《遺風》など。日本創作歌曲研究会、福岡市国際作曲家会議、作曲集団KALEIDISM各代表。日本現代音楽協会、日本作曲家協議会、日本・ロシア音楽家協会、北海道作曲家協会、青森作曲家協会、現代作曲同人소리유희(SORIYUHI/韓国)各会員。2015年ボルドー音楽院(フランス)レジデンス作曲家。福岡教育大学教授兼副理事。

 

⑥  遠藤雅夫
ヤルダン〜風の壁画
(作曲2020年   再演)

ENDO Masao
YARDAN-Mural of Win

◎作品について
ヤルダンとはウイグル語で「険しい崖のある土丘群の地」の意味である。風雨などにより地面の柔らかい部分が侵食され、堅い岩部分が小山のように残っている。中央アジアによく見られ、ネットには写真がいくつも掲載されていて、ロマンを誘う不思議な世界が展開されている。それは風が書いた壁画のようだ。この幻想的な光景を尺八とチェロで転写しようと作品を書き進めた。もし体力時間資力社会状況が整えば、敦煌にある国家地質公園で、満月に照らされたヤルダンを見たいものだ。

全3楽章により組み立てられている。尺八は1楽章は一尺八寸、2楽章では1尺6寸、3楽章二尺三寸管が使われ、それぞれ朝昼夜のイメージを重ねた。邦楽器尺八と洋楽器チェロは寄り添うように扱われている。
2021年札幌における北海道の作曲家展で、尺八:後藤双丈、チェロ:文屋治美の両氏により初演された。

◎作曲者プロフィール
1947年東京生まれ。藝大大学院修了。日本音楽コンクール入選、音楽之友社作曲賞、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。作品は国内外の音楽祭に招待されるなど数多く演奏されている。管弦楽作品、NHK委嘱による電子音楽作品、室内楽作品、ピアノ作品、歌曲、合唱曲をはじめとして作品多数。

 

⑦  高見富志子
禱II〜トロンボーン三重奏のための
(作曲2022年 初演)

TAKAMI Toshiko
Prayers for three trombones

◎作品について
 2015年に「禱〜フルート・ソロのための」を発表いたしました。当時は東日本大震災の爪痕が未だ生々しく、また、色々な場面で大切な人との別れに遭遇していた時期で、そうした惜別の気持ちをフルート・ソロという静謐な形で表現したいとの思いからでした。

 その後5年を経過した2020年初には突如発生したパンデミックは姿形を変え、多くの人々の心に新たな戸惑いや悲しみの影を落としていますが、私自身もその余りの大きさ、重さに未だ心の整理つかないままの状況です。
 本作品は、前述2015年作の続編ともいえるものです。トロンボーンは、内省的な最弱音から威圧的な最強音まで音の幅が非常に広いとされる楽器とされています。曲は、3つの部分から成っており、こうした、私の千々に乱れる今の思いをトロンボーン三重奏によって表現することを試みました。
 このたび、拙作の初演を引き受けて頂いた村田厚生氏、西岡基氏、飯田智彦氏のお三方には心より感謝申し上げます。

◎作曲者プロフィール
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院修了。第46回日本音楽コンクール入選。作品はNHK-FM「現代の音楽」、「ハーモニーの家・高原音楽祭」、「異なった視線―文化変容の接点」(1999 於ドイツ)、国際現代音楽祭「モスクワの秋」(2000 於ロシア)等で取り上げられている。第4回日本現代音楽展「風と枯木の歌」(JILA-1104)。日本現代音楽協会、日本・ロシア音楽家協会、Apsaras各会員。

 

⑧  ロクリアン正岡 
弦楽四重奏曲第3番「異形・日本・かぐや姫」

(作曲2013  再演)

Locrian MASAOKA
String quartet No.3“  Heteromorphism・Japan・The bamboo princess”

◎作品について
初演の時にも書いたように、かぐや姫が地球の“六人”の男の結婚要望を拒んだ如くに一オクターブ半音階の一つ置きの音を捨て、残る6音のみによる全音音階(WTS)に使用音を限ったというのが外形上の特徴である。視覚には主観的輪郭(心理学用語)といって、無いものがあるように見える現象があるとか。例えば朝日新聞のロゴマークではASAの下に円弧が見えるように。これは錯覚でありながら補正機能ともいえるもので、日常生活で安定した現実空間を想定するのに寄与しているといえる。本楽曲はその聴覚版と言ってよいものだ。音楽においてすっかり世の中に定着した長音階なるもの。よほどの音楽音痴でない限り我々現代人はすっかり全音階(DS)に調律されている。演奏者が発射する全音音階の音達が撥のように人の聴覚を打つとき、自ずと全音階の音が鳴り12個のいずれかの調性感が備わるのである。鑑賞とは何だろう?受容側の無意識の層には無尽蔵の想像力や創造性が存在することが本上演で確かめ得るのでは?医療に於いても主役は患者の方ではないか?されば、作曲行為とは演奏行為を借りつつ受容者のそのような潜在能力を引き出す仕掛け作りに過ぎなかろう。ことは音楽や医療にとどまらない。あらゆる領域で受容者の豊穣な内的世界に洞察の目が向き、それを通して日本仏教でいう“他力”が顕在化してゆく。これからはそうあらねばならない時代だと、私は思う。(詳述はロクリアン正岡のホームページに)

◎追加アピール文
NEW COMPOSER Vol.15に掲載中の詩的論文「生死を超えた観点から音楽史の過去・現在・未来を考える」での主役、SQ第3番「異形・日本・かぐや姫」の“再演”かつ桐朋学園の大学二年生の女性たちの結成チーム、カルテット・フローライトのデビュウ公演。
折角一オクターブ12個ある音の内、全音音階の六個の音しか使わない20分に及ぶ単一楽章。
これは、かぐや姫が六人の地球男性を拒んだ顰に倣ったみたいなものですが、
全音音階の不思議な能力に惚れ惚れしての2013年当時の作曲であり今回の公演です。
現実に供される音波はそのたったの六種音でも、聴き手は誰しも全音階に調律されているのだからこそ生じる豊穣な主観音ごとお楽しみください!