ファロス財団国際現代音楽祭レポート(前編) 〜会員:深澤倫子

音楽祭ポスターの前で

音楽祭ポスターの前で

去る9月11日~18日、キプロス共和国の首都ニコシアで行われたファロス財団第3回国際現代音楽祭へ、主人である今堀拓也の作品初演を聴きに行った。

北ニコシア(レフコシャ)のモスク。南はギリシャ正教、北はイスラム教である

北ニコシア(レフコシャ)のモスク。南はギリシャ正教、北はイスラム教である

キプロスはギリシャ系民族からなる、四国の半分程の大きさの地中海の島国である。しかしその北半分はトルコ系民族が実行支配し、独立国家「北キプロス」を主張している。もっともトルコ共和国のみが承認するが日本をはじめ世界の国々には認められておらず、未承認国家となっている。今回我々が行ったのはもちろん南側のキプロス共和国のほうだが、首都ニコシアではチェックポイントでパスポートさえ見せれば、分断ラインを超えて「北側」にも自由に入ることが出来たし、北の別の町も観光することも出来た。北に入った途端に民族、言語、文化、宗教ががらりと変わるという、分断国家の現状に触れた貴重な体験であった。イスラム教モスクの礼拝、ギリシャ正教会のミサも見学させてもらい、それぞれの祈りを目の当たりにしたことも印象的であった。

この演奏会はキプロスの他にも、マレーシア(タズル・イザン・タジュディン/第21回現音作曲新人賞受賞者)、ギリシャ(パナヨティス・ココラス)、韓国(スンジー・ホン、在ギリシャの女性作曲家。ココラス氏夫人)、ロシア(ドミトリ・コウリャンスキ/本人不参加)、アメリカ(ジョシュア・ファインバーグ、およびクリストファー・トラパニ/本人不参加)、日本(今堀拓也)、などといった多彩な国の30代を中心とした若手作曲家に、様々な楽器の組み合わせのトリオを条件に新曲を委嘱するというコンセプトを持っている国際音楽祭である。音楽監督はキプロスの若手作曲家で入野賞の受賞経験もあるエヴィス・サムーティスが務めている。

演奏団体は初日がヴォーカル・アンサンブルのEXAUDI、2日目以降は器楽で、地元キプロスの兄妹トリオIAMA、ベルギーのMusique nouvelle、ロシアのMoscow Contemporary Music Ensembleがそれぞれ演奏した。

オーナーのガロ・ケヘラン氏はブラジル国籍で(彼は9月20日に在キプロス仏大使館より、レジオンドヌール勲章を贈られている)、ニコシア市内と郊外のオリーブ林の中にそれぞれ私邸、と言うにはあまりにも大きなコンサートサロンを備えた立派な建物を構えており、初日はオリーブ林の野外ステージ、2日目以降は市内のShoe Factoryでコンサートが行われた。このShoe Factoryはその名の通りかつて靴工場であり、1974年の南北分断戦争で爆撃された多くの建物跡の瓦礫がそのまま分断ラインとなって放置されている、その中の一つをリニューアルし、立派に仕上げたものである。美しい建物の陰に、戦争の悲劇を感じずにはいられない。

初日オリーブ林でのコンサート

初日オリーブ林でのコンサート

注目作品はまず、ロシアのドミトリ・コウリャンスキのヴォーカル・トリオのための新作Voice-offで、特殊奏法を駆使する彼の作品らしく、声に限らず口腔の様々な音を取り入れていた。地元キプロスの音楽監督エヴィス・サムーティスはオノマトペと題した作品だが、オノマトペよりはシラブルの差異に重きを置いた作品。いずれにせよ言葉の意味を削いで発音の音響のみで構成した意欲作である。

つづく——

★後編は10月28日(金)にアップします。お楽しみに!