4月 13

卑弥呼とホームズのヴァイオリン事件簿〜第17回「卑弥呼のロンドンめぐり」


こんにちは! ヴァイオリニストの卑弥呼こと原田真帆です。はて、前回のコラムは何を書いたかな、ところでいつのことだったかな…と恐る恐るページを探り読み返したところ、昨年末のことでした。そこから弾みがついてさらに前の記事も読み返していたところ、こんな一節が目に入りました。

「そうして気がつけば、秋学期の終わりが目前です。来学期には様々な本番や試験があるので、冬休みにしっかり蓄えていかないといけません。時間の風に飛ばされそうになりながらも、足をしっかり地につけて、すてきな春を迎えられるようにまた精進していきます」

さて、もうすっかり春…と言いたいのはやまやまですが、今年のロンドンはまだ冷えます。家の前の木蓮はかなり咲き乱れておりますが、まだウールのコートが手放せない日々であります。

とはいえ、空気が徐々に緩んできたのも確か。いつもより少し遠回りをして公園を歩きながら学校に行ってみたり、と思えばロンドン名物“突然の雨”にお見舞いを喰らいつつ、イースター休暇という名の春休みを過ごす卑弥呼です。

 

 

前回から今回のコラムまでの間の春学期に一体何をしていたのかといえば、いろいろなことに追われていました。比較的ゆったりマイペースに勉強していた昨年度と比べると、こんなに忙しく過ごしたのは久しぶりのことだなと感じます。でも日々を忙殺してしまうのはあまりにもったいない生き方です。“いろいろなこと”の中でも、今学期は「ちょっと足を伸ばす」ということを意識していました。

たとえば行ったことのないカフェに寄ってみる。たとえばいつもと違う道を通って帰ってみる。そうしたちょっとしたことが、日々に喜びや愉しみを与えるのではないかと思うのです。特にわたしはもともと道を覚えるのが好きなのも相まって、ざっくりとした記憶を元に地図なしで歩いて、目の前の道が知っている道と交わったときにはとてもわくわくします。放課後はよくそうしてふらふらと歩いているため、おもしろそうなお店を見つけたら、逐一グーグルマップのアプリを起動しては、星印をつけています。そうして後日改めて訪ねていくのがまた楽しみなのです。

今学期の街歩きの中でとりわけときめいたのは、紅茶屋さんと布地屋さんです。

紅茶屋さんに関してはお気に入りの「Whittard」にはしばしば通っています。ただ、はてわたしの茶葉セレクションにもう少しバリエーションがほしいなと思っていたところ、「Twinning」の実店舗があるという情報をTwitterで見かけて、ある日行ってみました。しかし「Twinning」に関しては、ほとんどのものがスーパーマーケットでも販売されているなという印象で、目新しい発見は乏しかったのが正直なところです。でも、年明けすぐだったためにクリスマス限定フレーバーが半額で売られていたのですかさず買いました。

一方、何度か足を運んでいる「Fortnum&Mason」では今まで躊躇していた茶葉の量り売りにチャレンジし、改めて魅せられました。購入したのは、ウィリアム王子とキャサリン妃のご成婚を記念して生まれたブレンド「Wedding Breakfast」。ブレックファーストティーらしく濃いめの味ながらも、比較的すっきりとしたのどごしで、とても気に入りました。また「スコッチエッグ」発祥の店が「Fortnum&Mason」だということをつい先日知り、今度食べてみなくては、と思っているところです。いわゆるピクニックバスケットも「Fortnum&Mason」が生んだものだということで、ブランドの偉大さに驚かされました。

布地屋さんは大通りから一本路地裏に入ったところで見つけました。わたしは「ユザワヤに行ってテンションが上がるタイプ」の人間なので非常に嬉しくなったのですが、しかし残念ながら自分の裁縫の腕はそこまで優れているわけではありません。お気に入りの柄を手に入れて、洋裁ができる方に何かすてきなブラウスでもお願いしたいなぁと妄想は広がります。その日は別の目的地に向かって歩いていたので一瞬店内をぐるっとする程度に留めましたが、春休み中にもう一度行って、じっくり見たいなと考えています。

 

 

そのほかに行ってみた場所としては、家を出て学校と反対方向に行ったところにある自然食品のスーパーマーケットや、その2軒先にあるおいしいベーカリー。あるいは学校とも最寄駅とも違う方向に歩いたところにあるお惣菜屋さんやベーカリーカフェ。大英博物館に行こうとしたのにふと気が変わって道一本向こうの漫画風刺画ミュージアムに入ってみたり、あるいは19世紀末から続くチョコレート屋さんに行ってみたり。

春休みに入ってから、「Whittard」のティールームで初めてお茶ができたのも至福でした。アフタヌーンティーを予約したところ、座席で手渡された茶葉のメニューのボリュームには興奮しました。一度はおろか、二度三度と行ったくらいではとてもではありませんが全てを知ることはできません。これを攻略するには足繁く通う必要があると思うと、うれしい悲鳴ではあります。

また美術館などにも足を運びました。この度初めて訪ねたのが、V&Aこと「ヴィクトリア&アルバート博物館」。かつてロンドン一人旅をしたことのある母から「V&Aはカオスだよ」と聞いていましたが、行ってみて母の言わんとしていることはわかりました。とにかく世界中のありとあらゆるものが展示されているのです。そして何より広い建物です、これこそ何度も足を運ばねば味わいきれません。大英博物館と比べると、一体どちらのが大きいのかしら。

卑弥呼、V&Aの中庭にて

でもわたしは、そんな広い広い博物館の一角に、自分がお気に入りの静かな場所を見つけるという小さな夢を持っていました。博物館や美術館の常設展に行くと、この人はきっと通い慣れている人なんだろうなぁ、と感じさせる、妙にくつろいで座っている人を見かけませんか。わたしはあんな人たちに憧れています。特にヨーロッパは無料で入れる美術館が非常に多いので、床に座り込んでデッサンをする人も少なくありません。

大英博物館はまだメソポタミア文明やギリシャ文明のあたりしか開拓できていないのですが、今回ちょっとしたわけがあって3日連続でV&Aに通い詰める中で、そんな“カオス”な空間の中に、とても静謐で現世からエスケープできる場所を見つけました。え? どうして3日連続なんかで行ったのかって? 見たいと思って行った特別展の当日券がない×2日間を経て、わたしはやっと“事前にネットで予約する”という知恵を身につけたのです。三度目の正直とはこのことか…。

 

 

留学はもちろん専門の学びを深めるためのものですが、現地の文化に触れることもまた留学の醍醐味です。昨年度はのんびり過ごした分、ちょっと出不精になっていた節もあるので、まだ行ったことのない美術館・博物館・劇場を含めて、またロンドンの街を探索していきたいなと思うのであります。

ところで問題なのは、毎日の通学路の途中にあるのに「シャーロック・ホームズ記念館」に行っていないことです。全巻読破して、自分でオリジナルのホームズ短編まで書いたほどにホームズ好きなのに…! もしホームズ記念館に行ったら、このコラムでたっぷりレポートしたく思います。だって連載のタイトルにも「ホームズ」が登場していますからね…!

 

 

maho_harada文・絵:原田真帆
栃木県出身。3歳からヴァイオリンを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。現代音楽にも意欲的に取り組み、様々な新曲初演を務める。オーケストラ・トリプティークのメンバー。これまでに萩原かおり、佐々木美子、山﨑貴子、小川有紀子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵の各氏に師事。現在英国王立音楽院修士課程2年在学中、ジャック・リーベック氏のもとで研鑽を積んでいる。