卑弥呼とホームズのヴァイオリン事件簿〜第7回「卑弥呼版読書のすゝめ」原田真帆

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こんにちは!ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。

まだ学生だから冬休みがあるゆえかもしれませんが、年末年始は何となく「読書がはかどる期間」というイメージがあります。そこで今回は、最近読んだ、あるいはこれから読もうとしている音楽関連書籍についてつづります。

現代“音楽”からは少し離れてしまいますが、“現代の音楽家”だから読みたいものを生意気にも挙げてみます。音楽関連書籍というと古くからのロングセラーが多く、ニュースタンダードが現れにくい世界ですが、今回はあえて新しいものに絞りました。

 

『改訂版 音楽の文章セミナー: プログラム・ノートから論文まで』

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わたしはこのように人目に触れる文章を書く機会が多いために、タイトルが気になって手に取ったのですが、「音楽家ならば読んでおきたい本の一冊だな」と感じながら今現在進行形で読んでおります。

主に扱われるのは、音楽論文はどのように書くか。構成から、資料の入手方法や情報の扱い方・権利問題にも触れてあり、非常に勉強になります。ひとつの楽曲を取り上げいかに文にするか比較する項では、演奏会の解説、新聞などに載る演奏会批評、CDのライナーノーツ?、そして音楽論文の違いをまざまざと見せられ、非常に興味深いものでした。

とくに作曲家の方は、自作についてプログラムノートに記されることが多いと思います。作曲者自ら筆をとった解説を演奏会場で拝見すると、それぞれの作曲家の世界観は、五線の上に留まらず文章にもくっきりと表れることにいつも感嘆させられます。

はて、演奏家は曲に対するイメージをもっと鮮明に持つべきではなかろうか。最近海外で学んでいて感じることのひとつでもあります。もちろんそれぞれの曲に「イメージ」を持って演奏に取り組んでいますが、作曲家の方の文章に触れると、いつも演奏家としての自らの曖昧さ・甘さを恥じ入ります。

 

『蜜蜂と遠雷』

話題ですね。構想に10年以上かかっているということで、クラシック音楽界と言う特殊業界を描き出すことへの本気度が感じられます。海外にいても日本のニュースはリアルタイムで仕入れているわたしですが、この本に関してはノーマークで数日前に新聞で知ったばかりでして……

日本で開かれる国際ピアノコンクールを舞台にした小説です。自分もコンクールを受ける側の人間なので、かなり身につまされる部分があると思いますが、ぜひ読んでみたいと思っています。

 

『ジュリアードで実践している 演奏者の必勝メンタルトレーニング

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この本は、疑い半分、藁にもすがる思い半分で手に取りました。読んだのは1年半ほど前のことですが、今も鮮明に記憶に残る読書体験です。

このあとにあった本番は不思議と落ち着いた心境で臨めたので、読んだ甲斐があったのだと思います。正直な話、文中に出てきた様々なトレーニングは実践していないのですが(おい)、本番向けて気持ちをどのように持っていったら良いのか、という内容がとても役立ち、また心強いものでした。

今もって、本番における「上がる」という心理的束縛が、「緊張していつも通りに演奏できない」という身体的不都合に結びつく、ということは広い認知には至っていないように感じます。やみくもにさらうだけでは本番で良い演奏をすることには結びつかないことを、演奏家はもっと自覚していかないといけません。

 

『藍のエチュード』

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2014年に出た小説で、発売後早々に購入したのですがまだ読めていません。東京藝術大学の剣道部を描いた小説で、剣道部は実在する部活。青春群像劇で、音楽学部の学生、美術学部の学生、それぞれの登場人物の視点が出てきます。

ヴァイオリン専攻の女子学生に通学専用の運転手がいることには違和感を抱くけれど、小説だからいいかって、個人的にはそんな誇張も「アリ」に感じました。それ以外の描写がしっかりしているからこそ誇張が許せるところではあり、たとえば弦楽科の学生の生息域である「3号館3階」が登場することや、何より芸術活動に勤しみつつ運動部にも参加しちゃう姿が、とてもリアルな「藝大生像」を映しています。

『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』

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一方で、ちょっと首をかしげてしまったのはこちら。本文の中には時折、これは「実在するリアルな日常」に則しているか…?という疑問を持ってしまう部分もありました。前項の「運転手付きのヴァイオリニスト」は良くて、こちらの「音楽関係者に出会えるパーティー」を許せないのはなぜだ、という話なんですけれども、そこにはフィクションとルポの壁がそびえ立っています。

これだけ話題になり注目されたのだから、その状況を巧みに利用すれば良いのか、それとも「天才」という言葉によって「見世物化」されたことを嘆くべきなのか。そこで「藝術とは…」と悩んでしまうのが藝大生で、人から見ると理屈っぽく見れるかもしれないけれど、それが「藝大生らしさ」でもあり、またその悩みは「必要なこと」だとも思います。

なぜこの本が藝大生界隈で物議を醸しているかと言えば、乱暴に一言でまとめてしまうと「藝大生はやっぱり発想が違うね〜〜! ついていけないし、よくわかんないけどオモシロイわぁ!」と突き放されてしまったようにも読めるのです。まるでゲイジュツは難解で理解不能だと言われてしまったような。作者の方の好意的な姿勢は感じられるし、わたしの知り合いも本文中に本名を明かしてたくさん登場していて批判をするのはある意味はばかられるのですが、筆者と藝大生が「目と目を合わせた」というよりは、「藝大生が作家さんにジロジロと見られた」ような感覚に陥ったことは否めません。

お昼の情報番組「ヒルナンデス」にて放送された藝大特集は、録画で拝見しましたが、実態からかけ離れることはなく、紹介される側もそれを受ける側も見ていて気持ちが良い構成だったと思います。つるの剛士さんやミッツマングローブさんと藝大生が会話を交わす様子には、学生たちの「イマドキのワカモノ」らしさも程よく出ていて、藝大生といえども「普通の大学生」なんだなぁ、と視聴者の方には身近に感じていただけたと思います。

 

そして最後に…

すっかり長くなった卑弥呼の本語り、あと1冊だけお付き合いくださいね。

 

『不機嫌な姫とブルックナー団』

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今年の夏の頃にTwitter上をふらふらしていたら、新刊のタイトルにブルックナーの文字を見つけます。わたくし、何を隠そう「ブルックナー女子」なのです。同じく「ブル女」である(になる、が正しい)主人公が出てくる物語とあって「わたしが読まずに誰が読む!」くらいの意気込みだったのですが、何と留学のために旅立つ日のほうが発売より早く、冬の一時帰国の際に紙の本で買える日を心待ちにしておりました。

留学先にたくさんの本を持っていくのも重ければ、収納スペースのことも考えると電子書籍のほうが効率が良いことは重々承知ながら、やはり小説は紙で読まないと読んだ気がしない“Webライター”というのもだいぶ矛盾した話だなぁと思いつつ、こちらの本を冬休み明けに帰倫する際の機内でのお楽しみにしたいと思います。

 

それではみなさま、良いお年をお迎えください。また来月お会いいたしましょう!

 

 

 

maho_harada文・絵:原田真帆
栃木県出身。3歳からヴァイオリンを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。現代音楽にも意欲的に取り組み、様々な新曲初演を務める。オーケストラ・トリプティークのメンバー。これまでに萩原かおり、佐々木美子、山﨑貴子、小川有紀子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵の各氏に師事。