第4夜 上野信一&フォニックス・レフレクション演奏会 レポート

 現代の音楽展2015—演奏家と創造の現在④
「上野信一&フォニックス・レフレクション演奏会」をプロデュースして

佐藤  昌弘

2015年の〈現代の音楽展〉全4夜は、「演奏家と創造の現在(いま)」というサブタイトルからも伺えるように、各公演とも1人の演奏家と1つの演奏分野にスポットをあてた企画でした。去る3月10日に、渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホールにて開催された打楽器作品特集「上野信一&フォニックス・レフレクション演奏会」は、今年の現代の音楽展の最後を飾るに相応しい盛会振りで、無事終演をみることができました。上野信一さん、フォニックス・レフレクションのメンバーの悪原至さん、大場俊さん、荻原松美さん、小俣由美子さん、新野将之さん、峯崎圭輔さん、ゲストのクラリネットの板倉康明さんといった出演者の方々を始め、当演奏会の開催にご尽力頂きましたすべての関係者の方々に、この場を借りまして、あらためて御礼を申し上げます。ありがとうございました。

今回の演奏会でとりわけ良かった点は、第一に出演者の方々の素晴らしい熱演です。そして第二にはプログラミングでありました。選曲、曲順の双方とも大変上手くいった手応えを感じています。6曲の演目中、4曲が日本現代音楽協会会員作曲家の作品、2曲が中国の現役実力派作曲家の日本初演作品でした。

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倉内直子《解放―4人の打楽器奏者のための》

演奏会は、倉内直子会員の新作《解放―4人の打楽器奏者のための》で始まりました。膜質打楽器のアンサンブル曲で、まさにオープニングにうってつけの疾走感溢れる作品。

2曲目は、森田泰之進会員の新作で、打楽器二重奏作品のたうないさい』。2人の打楽器奏者が、セットされた打楽器群内を忙しく動き回りながら叩き続け、交錯することもしばしばで、スリリングなパフォーマンスを展開。

3曲目は、プログラム前半の最後の曲にあたる松尾祐孝会員の2011年の打楽器独奏作品フォノ10~打楽器独奏ための狂詩曲 〈パイ〉》。およそ15分にわたり終始叩きっ放しの超絶技巧の難曲を、上野信一さんが大力演。めくるめくクライマックスへの盛り上がりが圧巻でした。

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Yuan GUO《Mists》

休憩後のプログラム4曲目は、中国の作曲家、Yuan GUO氏の2012年作の打楽器アンサンブル作品Mists》。打楽器奏者数は当夜最大の6奏者で、上野信一さんがタクトをとりました。大中小の3つの鈴(りん)が奏でるドローンのうねりが、妙なる独自の音空間を作っていました。

プログラム5曲目は私、佐藤昌弘の新作で、クラリネットとヴィブラフォンの二重奏曲Nocturne》。2月の始めに完成したばかりという、まさに出来たての曲を、クラリネットの板倉康明さんをゲストにお迎えして、上野信一さんのヴィブラフォンとのデュオで演奏して頂きました。この2楽器が表情豊かに融け合いながら作り出す、柔らかで透明な響きの世界を、聴き手の皆様に感じとって頂けたのではないかと思っております。

プログラムの最後は、中国の作曲家、Xiaozhong YANG氏の2012年の打楽器アンサンブル作品Cloud Cluster》。打楽器奏者数は5名ですが、楽器数は当夜最大で、ステージ上に所狭しとズラリ並んだ様はまさに壮観でした。指揮は上野信一さん。繰り広げられる音楽は華やかにしてユニーク、力強さと繊細さを併せ持っており、聴き応え十分の力作でした。

当夜は集客も良好でしたが、若い世代のお客さんが目立った点は特筆すべきことでした。

打楽器音楽の領域は、まだまだ様々な可能性があります。これを機に、日本現代音楽協会においても、さらに新しい打楽器作品を創造的に発信出来ればと希っております。

 

 

「上野信一&フォニックス・レフレクション演奏会」

森田 泰之進

国内外にて旺盛な演奏活動を展開するマルチ・パーカッショ二ストの上野信一氏と、門下の打楽器奏者グループ「フォニックス・レフレクション」の若手メンバー6人が、現音会員4人のほか、上野氏推薦の中国人2人の作品を取り上げた。編成は打楽器独奏から6重奏、クラリネットも織り交ぜてバラエティーに富み、一般の音楽ファンも楽しめる内容だった。

最初に演奏された倉内 直子会員《解放—4人の打楽器奏者のための》は上野氏を含む4人が、小型タンブリンの連打で始まる。続いて大太鼓、ボンゴ、ティンパニを主軸に音響の幅が広がっていく。端正で明快な構成が印象的だ。

森田 泰之進「たうないさい」は舞台中央のトムを中心に配置されたマルチパーカッションセットの間を2人の演奏者が動き回りながら曲が進む。若手2人の緊張感と表現力溢れる演奏が聴き手の心をつかんだ。

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松尾 祐孝《PHONO no.10 – a Rhapsody for Percussion solo <π>》

松尾 祐孝会員《PHONO no.10 – a Rhapsody for Percussion solo <π>》は、円周率の数字を楽器を打撃回数に置き換える、という発想のソロ作品。布を敷いたボンゴの弱く怪しげなリズムなどは怪しげな呪文のようにも聞こえる。作品力とともに、上野氏の名演に脱帽。

後半の郭元《“Mists” for 6 Percussion Players》は、大型のリン3個で音場を作り、その上をウッドブロック2人が懐古的でユーモラスなリズムを聞かせる。この2人は実質ソロの役割を果たし、雄弁に語りながら曲を牽引していく。

佐藤 昌弘会員Nocturne pour Clarinette et Vibraphone》は、クラリネットに板倉康明氏を迎え、ヴィブラフォンの上野氏と絶妙の二重奏を展開する。ソフトマレットのヴィブラフォンは上質で柔らかく、その上をクラリネットが春を寿ぐように歌う。静かな夜の歌だ。

最後の楊暁忠《“Cloud Cluster” for 5 Percussion Players》は、4つの楽章からなる。ビール瓶に息を吹き込む響きから始まり、最終楽章では録音された作曲者自身の歌声も加わり、独特の民族的な響きに仕上がった。

会場は若い層も多く、現音のテーマである聴衆層の開拓を考える上で、示唆に富む企画だった。

会場の渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホールは、現音の演奏会として本格的に使われるのは初めてだったが、当日の来場者からは「打楽器の音の細かいニュアンスが客席にしっかり伝わる」と音響について評価する声が目立った。