第2夜「西川竜太が啓く現代合唱の世界〜第21回朝日現代音楽賞受賞記念演奏会」


第2夜「西川竜太が啓く現代合唱の世界〜第21回朝日現代音楽賞受賞記念演奏会」
見どころ聴きどころ

                                      制作担当 松尾祐孝

当協会の創立80周年記念として開催した〈現音・特別音楽展2011「新しい音楽のカタチ」〜軌跡と未来〜2daysコンサート〉(2012年1月)全5公演の中の1公演は、西川竜太氏指揮によるヴォクスマーナの演奏に託され、様々なスタイルの作品がそれぞれに彫琢された充実した内容が実現して、大きな反響が上がりました。

1996年に創設されたヴォクスマーナとの長年にわたる協働・協創に象徴される大活躍によって、西川竜太氏は日本の現代音楽シーンに確固たる地歩を築いてこられました。

加えて、数多くのアマチュアや大学等の合唱団やアンサンブルの指導・育成からも、最先端の現代作品の初演や再演を数多く生み出してこられました。

そういった活動が高く評価されて、西川氏が2011年度「第21回朝日現代音楽賞」を受賞されたことは、作曲家である私どもとしても大いなる歓びとなりました。

来たる2月15日の演奏会では、西川竜太氏の指揮の下に、氏と縁の深い団体、ヴォクスマーナ、女声合唱団 曉、混声合唱団 空(くう)、男声合唱団クール・ゼフィール、成蹊大学混声合唱団の演奏によって、公募作品と委嘱作品に石川氏の推薦による選曲も加えて、6名の作曲家の作品が一挙に披露されます。

現代の合唱やヴォーカル・アンサンブルの可能性を、どうぞたっぷりとお楽しみいただければと存じます。

当日の会場ではちょっとした”サプライズ”があるかもしれません。種明かしは会場にて・・・乞うご期待!

 

◎ 出品者の福士則夫さんから、出品作「霧とカムイ」 についてメッセージを頂きました。

作曲家のみならず書く人にとって締め切り日は鬼門である。締め切りに追われてうなされる人、夢の中では出来ていたのに目が覚めたらまだだったとか、ゲネプロ中にも楽屋でまだ書いていたなど、古今東西この話題なら事欠かない。遅筆の私の場合、今までになかったレアケースなので話題提供。

去年の今頃、合唱指揮の西川竜太さんから朝日現代音楽賞受賞記念演奏会に出品して欲しいとの要望があった。この演奏会直後に、ある打楽器の演奏団体から作品を委嘱されていたので、同時期ではスケジュール的に無理である事を伝えたのであるが紆余曲折ののち、たってのお願いという事で結局引き受ける事にした。世の中には机を3つ並べて異なる作品を同時進行する強者もいると聞いているが自分にはとても出来ない相談。可能なのは最速で仕上げて次に取りかかるという方法。前年の秋から書いていた室内楽も早めに切り上げて本番の日、昨年の4月29日だったが、その直後に合唱に使用するテキストを決定してその夏の8月、西川さんにスコアをお渡しした。そして今はと言えば、今年3月初めのコンサートのための作品に悪戦苦闘中で、合唱作品は遠い彼方の出来事になってしまっている。NEW COMPOSER編集室長山内雅弘さんから呼びかけられたWEB版にお答えしようと合唱作品のアッピールを書き始めたのだが、ここは硬質打楽器だから固いマレットを使用、交換の時間はあるかどうか、などと考えている傍でテノールパートの音節とリズムの関係は?なんていうねじれ現象に陥った上、PCに向かって原稿など書いている場合ではないでしょう!という気持ちもあってはなはだ取り乱している。

アッピールにはほど遠かったがご来聴いただけたら幸いである。

 

◎ 出品者の松平頼暁さんから、出品作「A Person has let the “kelly” out of the bottle」 についてメッセージを頂きました。

2012年、曽健華による、単語・句・短文が壁面を飛び交う作品「第5の封印」の音楽化を考えていた。言葉の現れるタイミング(リズム)と壁面上の位置(之を私はピッチに変換しようとしていた)を特定するために、原作のヴィデオを投影出来る大型のスクリーンが必要だった。幸いにして、藝大の松井茂さんの研究室のプロジェクター・スクリーンが拝借できることになった。合唱団「暁」の2人のメンバーズと指揮者の西川竜太さんの御助力で作業を終えた後、松井さんから手渡されたのが「A Person has let the “kelly” out of the bottle」だった。之は日本語と外国語の翻訳をくり返し、意味がとおりにくくなったところで、漢字の宛て字を混じえて日本語の体裁にととのえたものである。言葉の意味がないのだから、当然ここには感情は無い。帰途、私は之に宛て字のように、感情を音楽的に付与してみようと思った。

2013年、「第5の封印」が完成した。はじめは10秒に1箇位の速度で単語が現れるのだが、クライマックスでは同時に100箇以上の単語・句・短文が現れる。そこで、合唱のライブ演奏と録音を併用することにしたのだった。夏頃から、築地のスタジオで少しずつ録音がはじまった。午前録音、夕方コンサート行きという日には、午后、コーヒー店で、“…Kelly…”の構想をメモすることにした。この詩には、日本語として文章の切れ目と読める部分があり、私は全篇を36の文章に分けた。私はここで、古来インドで言い伝えられて来た9種の感情、ヒロイズム、エロティシズム、警き、落着き、悲しみ、憎悪、怒り、恐れ、歓喜を想い出した。36箇の文を4群に分け、感情の出現順を1群で123456789、2群で135798642、3群で159624873、4群で192837465とする(5群があったとすれば、1群の順序が戻ってしまう) 。36=4×9という関係は好都合だ。9種類の感情にはそれぞれ、ピッチ・インターヴァル技法に由来する9種類のモードを割り当てた。

10月15日、「第5の封印」の最終録音の後、私は雨中で足を滑らせ、築地の歩道橋で転倒した。築地の病院に救急で運ばれ1ヶ月強の入院、手足が動かない状態、発声困難、幻視などの症状に悩まされたが、それらは本稿と直接関係ないので詳細は省略する。約1ヶ月後、リハビリ専門の病院に転院、夕食後、就眠までの時間に“…Kelly…”の作曲を病室で再開、年末、年始の一時帰宅の機会に之等をピアノでチェックして修正、再び1ヶ月の再入院、2月初旬の退院後、全曲の演奏時間が長過ぎるので、今回の演奏のために2群までで中断することにした。さらに演奏時間を縮小するために、2群の一部を3、4群の同じ感情の部分と入れかえ、5月3日に完成。詩の全編を用いたヴァージョンは、原詩の順を戻し、混声合唱のための作品とした。之は他の2作品の作曲と、私の別の病気による短期の入院もあって、11月3日の完成となった。今回の演奏のために、文章の配置換えを許可して下さった松井さんに感謝します。