福士則夫のチビテッラ日記〜第6回〜

●第6回「プレゼンテーションが始まる」

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

プレゼンテーションが終わってホッと一息のセルジオ

夕食前、今日から始まるプレゼンテーションは午後5時半から。持ち時間は一時間でまずはテカテカ頭の作家、セルジオが一番手となる。45分ほどスペイン語の朗読があり、訳文はプロジェクターで英語。始まる前にフランス語でないのでごめんと言ってくれる律儀な性格だが、謝られるほどの語学力がこちらにないので気が引ける。プレゼン前後に近隣からやって来る招待者も参加してのレセプションに長居はせず、ワインとツマミだけはいただいて当然自室に引きこもる。

夕食は時として豪華版の場合もあるが大体はバイキング方式で食後の歓談に付き合わない時は、恐ろしく長い夕暮れ時を迎える事になる。最初は時間をもて余していたが近頃は持参したMDでヨーヨー・マのバッハ無伴奏を聴いたり、洗濯したりワードで原稿を書いたりデジカメで撮った小旅行の写真をPC上で整理したり、する事はいくらでもあるが、今日の特記事項はなんと言っても頼んでおいた携帯の海外用アダプターが届いたことである。早速充電しカミさんと次女の声を久しぶりに聞く。

東京藝術大学で26日にあったフンメルのファゴットコンツェルトは上手く演奏できたらしい。離日する前、作曲家の北爪道夫君に娘がモーニングコンサートに出ることを話したので家族で芸大奏楽堂に聴きに行ってくれたとか、感謝である。今日、ローマ在住のピアニスト藤谷奈穂美さんに電話をするとローマは35度まで気温が上昇しているとか、この丘の上の森に囲まれている城でも暑いわけである。今は亡きイタリアの作曲家ドナトーニの弟子であった杉山洋一君から紹介された藤谷さんとは面識がなかったが、プレゼンテーションの時に通訳をお願いできないか日本にいる時からメールをやり取りした方である。

そもそも、この城で60日間の滞在中、唯一の義務が自作に関してのプレゼンテーションである。事前に英語の原稿を用意し、自作品の音源とDVDで何とか乗り切る事を考えているのだが、それでも通訳は必要になるだろう。英語の書類に関しては壬生千恵子さんに随分とお世話になった。今回ラニエリ財団の招聘に関わる翻訳から書類作成、連絡全てにわたってお世話になっている壬生さんとは2年にわたってのお付き合いになる。彼女とは2001年、日本現代音楽協会の主催による横浜で開催されたISCM世界大会で事務局長をしていた折、プログラム制作ほか外国とのやり取りで日本現代音楽協会に大きく貢献していただいた。今回の件は本来昨年に参加の予定が、作曲コンクールの審査期間にかぶってしまいキャンセルしたので2年越しになるわけで、壬生さんの方に足を向けて寝られない。

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

麦畑から見た丘の上のチビテッラ城

城の中庭に巨大な北斗七星が瞬き始める頃、腰の上まである足高のベッドに這い登り成田空港の本屋で買った半藤一利、江坂彰共著「日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか」を読んでいるが、これが結構面白い。第二次大戦の失敗と企業リーダーの問題が鏡のようになって語られている。自分は果たして歴史に学んだろうか?

★次回第7回「スーパーマーケットを横目に」予告

7月2日(水)、車で1時間ほど駆けスポレートという古い城がある街に出掛けた。ここにも美しいカテドラルがあるが辿り着くまでかなりの急勾配。さらに丘の頂上に古い要塞があり30度を越す炎天下で地獄の責め苦であったが、我々の世話をしてくれるインターンの二人の若い女性、タラとブリアナは城砦の突端まで走っていってワーワーキャーキャーさすがに世代が違う…

更新は9月14日(水)です。お楽しみに!