1月 19

高橋アキさんからのメッセージ


高橋アキさんからのメッセージ

 

このたびは「現代の音楽展2016」で、朝日現代音楽賞受賞記念に2日間の催しをしてくださることになりました。

2014年に受賞のお知らせを頂いたときには驚き、嬉しく思ったものでした。その際、「いずれ受賞記念のコンサートがある」とお聞きしていたので、どんなコンサートになるのかしらと楽しみにしていたのですが、しばらくして現音からその内容を伺って、また全く同じ言葉になってしまいますが、驚き、嬉しく思いました。その理由は、何とタイトルが「ピアノ特集~シューベルトからコンテンポラリーへ」となっていたからです。

送られてきた”コンセプト“をそのまま引用させていただくと、「2014年に朝日現代音楽賞を受賞された高橋アキさんは近年、現代音楽のみならずシューベルト作品の演奏にも積極的で、大変な好評を博している。『ピアノ特集~シューベルトからコンテンポラリーへ』と銘打った当企画では、「レクチャーと公開レッスン」、「高橋アキピアノリサイタル」の2日からなり、シューベルトのピアノ音楽を現在形に捉え、コンテンポラリーのピアノ音楽とリンクさせることにより、クラシック音楽に新しい光をあて、かつ新しい音楽作品誕生の契機(シューベルトを素材にした新作)をも企図しており、現代音楽ファンのみならず、ピアノを専攻する学生やクラシックのピアノ音楽ファンにも、広くアピールし参加を促すものである。」

このように日本現代音楽協会が、「シューベルトのピアノ音楽を現在形に捉え」る企画をなさったことを何よりも嬉しく思いました。

私自身は高校時代から現代の音楽に憧れ、その弾き手となりたいと願ってきましたが、その一方でクラシックももちろん勉強していましたし、大学院時代には恩師ゲオルク・ヴァシャヘーリ先生に強く勧められてシューベルトのソナタを最初は仕方なく(?)弾き始めていました。その後モートン・フェルドマンに招待されて彼がディレクターだったニューヨーク州立大学バッファロー校付属の「創造と演奏の芸術センター」のメンバーになったとき、最初のリサイタルから、私が全曲演奏会をしていたエリック・サティの作品をプログラムに入れるようフェルドマンに言われ、これにも少し驚きました。彼はサティが大好きだったのです。そしてシューベルトも好きで、実際レクチャーなどでもシューベルトのソナタを取り上げていました。フェルドマンは1987年に亡くなりましたが、それ以後今日に至るまで彼の音楽は世界中でますます高く評価され、演奏回数も増える一方です。

またシューベルトの音楽は、「しまりなく長ったらしくてソナタ形式に全く向いていない」などと長年ほとんど評価されることのなかったピアノ・ソナタが特に近年見直され、多くのピアニストによって好まれ演奏回数も同じく増える一方です。そして現代音楽の作曲家のあいだでもフェルドマンだけでなく、シューベルトを評価する人たちは実は多いのです。ほんの一例を上げると、ルチアーノ・ベリオ、ディーター・シュネーベル、ハンス・ツェンダーなどはシューベルトの曲を補筆したりアレンジしたりしています。さらにフェルドマンとシューベルトとの共通性も音楽学者のあいだで近年取り上げられ、ヨーロッパでは学者たちによるシンポジウムまで開かれています。

私もあるときマドリッドの1週間続く現代音楽祭で、頼まれて3日間コンサートをしました。テーマが「シューベルトとフェルドマン」だったのです。そこでシューベルトの遺作のソナタ3曲とフェルドマン晩年の長いピアノ曲2曲、そしてデヴィッド・アルバーマン、ロハン・デ・サラムとの共演でシューベルトの「ピアノ・トリオ第2番」とフェルドマンの演奏時間100分ほどの「トリオ」を演奏したことがありました。「しまりがなく長ったらしい!」が共通項のひとつであろうこの二人の作曲家のこうした特徴が、逆に「ひたすら前進!」というような引き締まった構造の音楽にはない「ためらい漂うような優しい、時間を忘れさせるような感覚」を持つ音楽として、時代の変遷とともにクローズアップされてきたのでしょう。

今回の2日間の催しでは、シューベルトとともに、私のデビュー当時から新作を書いてくださったりと親しくさせていただいている湯浅譲二さん、松平頼暁さんの作品が若い演奏家たちによって演奏され、また私自身も演奏すること(これには緊張させられますけれど!)。そして湯浅さんが審査委員長をなさったときの「競樂」(私も審査員のひとりでした)で見事第1位に選ばれた佐藤祐介さんとの連弾もあります。さらに「シューベルトを素材とした」中川俊郎さんの連弾のための新作、そして現音会員の作曲家お二人(現段階ではどなたになるのかわかりませんが)による新作の出来上がりも大変楽しみです。