第32回現音作曲新人賞受賞の言葉〜川合清裕

川合清裕

DSC_7760sこの度、第32回現音作曲新人賞を受賞致しました川合清裕と申します。このような栄誉にあずかれたことを、本当に嬉しく思います。日本の作曲コンクールの中でも屈指の歴史と権威を誇る賞で、この賞を受賞することが私の目標でした。

まだまだ未熟な私の作品に可能性を見いだし選出して下さった審査員長の金子仁美先生、審査員の鈴木純明先生、山本裕之先生。技術的に無茶な要求の多い譜面を軽々と音楽的に弾きこなし、拙作を何倍も魅力的に演奏して下さったクァルテット・レオーネの佐原敦子さん、小杉結さん、阿部哲さん、豊田庄吾さん。リハーサルから本番まで、きめ細かくサポートしてくださった日本現代音楽協会事務局の方。今回のコンクールに携わって下さった全てのスタッフの皆様。そして、聴きにいらして下さったお客様。皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

拙作は(自分で言うのもなんですが)ずいぶんアナクロニスティックな作品で、まさか受賞できるとは夢にも思いませんでした。もちろん、私の中ではより良いものを目指して作曲してはいるのですが、それは客観的に評価されることなく、自己満足に終始するものだとばかり思っていました。

今回のコンクールを終えて、現代の音楽の許容範囲の広さ、懐の深さをひしひしと感じております。私の作品から具体例を挙げますと、調性がチラっと現れたり(完全なドミナント和音まで出現します)、4楽器がずっと同じ動きをしていたり、単純な半音階が出てきたり…、少し前の現代音楽の流行から考えると随分わかりやすい、単純明快なものですが、これでも許容される。難しいことは私にはわかりませんが、多種多様な価値観のいずれもが認められうる可能性を秘めている、そのような時代なのではないか、などと考えを巡らせたりもしました。

言うまでもなく、音楽はいつの時代も自由で(稀に特殊な例外はあるが)、私の作品のような懐古趣味の音楽が一つの潮流であった時代もありますが、現代はそういう次元を超越した自由さがあるように感じます。新ロマン主義、ミニマリズム、トータルセリエリズム、偶然性、空間性、身体性、スペクトル音楽、エレクトロニクス、ノイズ、アプロプリエーション、ポップ……、その他、ありとあらゆる音楽のスタイルが出尽くした現代だからこそ、その全てに可能性が開かれている、そんな気がします。もし私の浅慮が的を射ているのであれば、今コンクール、ファイナリスト4人の四者四様の作品は、現代の音楽の在り方を象徴していたと言えるのかもしれません。私のアナクロな作風も、その時代錯誤感が逆に新鮮なのだ、と半ば自嘲気味に、しかしポジティブに考えつつ、時代の庇護も少しばかり感じつつ、今回の受賞を自信にこれからも精進してゆきます。

さて、ご依頼頂いた1,200字もそろそろ満たせたようです。ここまで長い駄文をお読み下さった皆様、ありがとうございました。とりとめのない文章となってしまいましたが、これをもって受賞の言葉とさせて頂きます。

 

▼第32回現音作曲新人賞審査結果はこちら

左から、佐原敦子(ヴァイオリン)小杉結(ヴァイオリン)豊田庄吾(チェロ)阿部哲(ヴィオラ)

左から、佐原敦子(ヴァイオリン)小杉結(ヴァイオリン)豊田庄吾(チェロ)阿部哲(ヴィオラ)