渋谷由香さん、松浦伸吾さん、富樫賞受賞のことば

▼第28回現音新人賞富樫賞:渋谷由香
この度は、オペラシティという素晴らしい場所で、自分の作品をたくさんの方に聴いていただく機会をいただけて、大変光栄に思っております。
微分音程を12平均律ではない音律としてここまで規定して使用した曲を、実際の音にする機会というのは初めてに等しかったのですが、想像していたとおりの音の世界が確認でき、嬉しかったと同時に自分の音楽というものがより明確になりました。そして、富樫賞と聴衆賞という賞をいただく事ができたことは、今後の励みとなりました。聴きにいらしてくださった方々、関係者の方々、どうもありがとうございました。

 

▼第28回現音新人賞富樫賞:松浦伸吾
第28回現音新人賞入選、及び富樫賞を頂くこととなりました、作曲の松浦伸吾と申します。このような結果を得たことをとても喜んでおります。自作品を演奏してくださった、ヴァイオリンの竹内さんと星野さん、そしてピアノの兼重さんに対して、大きな感謝を抱かずにはいられません。有難うございました。
この作品は自分の中に起こったイメージ—霧中の紅—を全く自由に、言い換えれば、作曲技法やコンセプトをあえて固めずに描き進めたものでした。今日までに蓄え、鍛え上げてきた数々の作曲技法や音楽的アイデアを全て机上にばらまき、必要に応じてそれらを楽譜に塗りつけていった。直感を前面に押し出した結果いつの間にか作品が組み上がっていた、という印象を私は持っていますが、それに対して何らかの評価を頂けたことは非常に心強く思います。今回の経験によって、感性と構築力への自信を少しばかり得ることができました。
ちなみに私も大体400文字です(笑)。

 

▼富樫賞(2005年設立)歴代受賞者

2005年度第22回現音作曲新人賞:山根明季子《Transcend》
2006年度第23回現音作曲新人賞:該当作品なし
2007年度第24回現音作曲新人賞:稲森安太己《ミンネザング》
2008年度第25回現音作曲新人賞:秋元美由紀《Catalyst〜連鎖》
2009年度第26回現音作曲新人賞:田口和行《葉桜》
2010年度第27回現音作曲新人賞:該当作品なし
2011年度第28回現音作曲新人賞:渋谷由香《不均等音律による6つの風景2》松浦伸吾《霧中の紅》

受賞の言葉を400文字で…第28回現音作曲新人賞受賞〜酒井信明

酒井信明

作曲の酒井信明です。このたびは素晴らしい機会に恵まれたこと、作品を評価していただいたこと、心より感謝いたします。

さて受賞の言葉を400字程度で、とのことで今書かせて頂いておりますところですが、不思議と言葉が出てこなくて困っておりました。まだ起こった出来事について、あまりよく実感が沸いてないようなところがあるのかもしれません。

考えても見れば、作曲コンクールの本選において、わたしは何もしていません。演奏によって紡ぎだされる音によって審査はされるわけですが、音は作曲ではないのです。なぜ、作曲コンクールは演奏コンクールではないのか、などよくわからない命題について悶々と考えておりました。そんなことを今ここに書いてもしょうがないのですが、もうせっかくなので言葉が出てこない感じをその片鱗だけでも言語化して、読者の皆様にお伝えできれば、きっと何の役にも立たないだろうと存じますが、ミッション完了!(^^)vとはなるのかなぁなど、思うしだいです。

 

ちなみに、絵文字のvサインでちょうど400文字になるように調整しておきました。それではお後がよろしいようで。m(_ _)m

 

酒井「お後が宜しいようで」多久「良く出来ました」

酒井「お後が宜しいようで」多久「良く出来ました」

現代音楽って奥が深いなあ^^ ヴァイオリン星野沙織/第28回現音作曲新人賞本選会

酒井作品リハーサルにて

第28回現音作曲新人賞受賞作メンバー 撮影:星野沙織

こんにちは!ヴァイオリンの星野沙織です。

24日のコンサートから数日が過ぎました。聴きにきて下さった方々、どうも有難う御座いました!

今回わたしは酒井信明さん、松浦伸吾さんの作品を演奏させていただきました。また、他の方の作品も聞かせていただきましたが、それぞれが全く異なる雰囲気の曲で本当に楽しく演奏、拝聴しました。

酒井作品本番演奏後

酒井作品本番演奏後 左からpicc多久潤一朗、vn星野沙織、bsn福井弘康

酒井さんの曲は、ヴァイオリン、ファゴット、ピッコロそれぞれが協力しあうというより反発しあっており、他の奏者の音に俊敏に反応し呼応します。それによりひとつのラインに聞こえるといった感じで、こと最終楽章は可能な限り早く反応しあわなければならず本番もとてもどきどきしておりました。

松浦さんの曲は起伏や波、静と動、強と弱、黒と白といった感じで、小さなうねりや起伏が重なって曲全体を大きな波動というか、命のようなものとして捉えているように感じました。

現代音楽をやっていつもありがたく感じるのは、作曲家からじかに曲についての考察やアドヴァイスを頂けるということです。クラシックの楽曲を普段やっていると作曲者が既に亡くなっていることのほうが多いので、まだ生きていてじかにお話できるというのはとても貴重な体験だなあとひしひし感じます。

入賞、入選された方々、おめでとうございました! また、こうして素晴らしいコンサートにかかわらせていただけて嬉しかったです。

現代音楽って奥が深いなあ^^

 

星野沙織

星野沙織

●星野沙織(ほしのさおり/ヴァイオリン)
2006年3月、国立音楽大学附属高等学校を首席で卒業後、2010年3月、国立音楽大学を首席で卒業、同時に武岡賞受賞。第3回全日本芸術コンクール音大部門第2位(1位なし)。第80回読売新人演奏会出演。第35回国立音楽大学東京同調会新人演奏会出演。これまでに小森谷巧、徳永二男、 清水高師、藤原浜雄の各氏に師事。現在桐朋学園大学研究科2年。国立音楽大学演奏補助員。

★現音80周年記念 浜離宮朝日ホール2daysフェスティヴァルに出演!
2012年1月22日[日]17:00開演
室内楽II〜Strings

黛敏郎/プリペアドピアノと弦楽四重奏のための4つの小品

演奏:竹内弦・星野沙織(ヴァイオリン)藤原歌花(ヴィオラ)松本卓以(ヴィオラ)兼重稔宏(ピアノ)

チビテッラ日記を終えて〜福士則夫

イワツバメが舞うチビテッラ城

イワツバメが舞うチビテッラ城 絵:福士則夫

まずは毎週水曜日の13週間、ブログを読んでいただいた方々に感謝いたします。

小さな文字は自分で書いた文章でも読みにくく、ご迷惑をかけたかもしれませんが写真の方で少しは楽しんでいただけたでしょうか。60日間の滞在中にはいろいろな事が有りブログに書き記したものは、ほんの一部です。初日から事件は勃発していました。城の中には古い絵がいたる所に飾ってありますが、自分のあてがわれた居間にあるベッドの向かいの壁に、男3人がひざまずいている暗い絵が架けられていました。多分この絵が原因と思われます。城に着いた最初の晩に生まれて初めて金縛りに会い、3人の男に囲まれ危うくベッドから引きずりおろされそうになりました。連載の1回目に書きましたが、ペルージャに着くまでには飛行機が嫌い(往復の機内ではほとんど寝ていません)、語学力不足、方向音痴で指定の場所にたどり着けない、忘れ物をしばしばする、などなど旅にはおよそ相応しくないダメオヤジにさまざまな小事件が降りかかり肉体的にも精神的にもかなり疲弊していた上、辿り着いた先が古い城で居間には暗い絵が架かっていたわけですから、金縛りは成るべくしてなった結果だと思います。

日記を読み返してみると遠足の話が多く、いったいイタリアまで何をしに行ったのか糾弾されそうですが、何十年ぶりに書いた声のための作品は自分にとって大きな変化でした。

広大なひまわりやオリーブ畑を越えて吹き渡る微風に、自分の感情が久しぶりに湧き立つ思いでした。また滞在中に水彩でチビテッラ城を何枚か描きました。自己流で拙い絵ですが気分転換にはなるので時々描いています。

城への並木道

城への並木道

冬の街路樹

冬の街路樹

このセッションが終わって家族と短い旅行を共にしてローマから帰るとき、空港で3本のバルサミコの瓶を携帯して捕まりました。幸い家内の哀願が通じてこっそり機内に持ち込めましたが、フィレンツェの市場で買った上物が危うく没収されるところでした。今までサラダというものには見向きもしなかったのですが、城での食事時に必ず口にした新鮮な野菜と芳醇な味のバルサミコソースにすっかりハマりました。おかげで帰国してからも野菜サラダを毎日食べるようになったのは、バルサミコが原因かもしれません。この素晴らしいプロジェクトに興味がお有りの方は下記にアクセスして下さい。

チビテッラ・ラニエリ財団

チビテッラ・ラニエリ財団のホームページから2008年のカタログを検索していただくと、その年に招かれたフェローのポートレートを見る事が出来ます。

最後まで読んでいただいた方に、心からのお礼を申し上げます。

チャオ、チビテッラ!次の目的地は家族でヴェネチア

チャオ、チビテッラ!次の目的地は家族でヴェネチア

福士則夫

「福士則夫のチビテッラ日記」全14回の目次を表示する(本文を読むには各回のタイトルをクリックしてください)

演奏会レポート「第28回現音作曲新人賞本選会」〜坪能克裕

第28回現音作曲新人賞本選会

第28回現音作曲新人賞本選会表彰式

〈現音・特別音楽展2011〉「世界に開く窓」が11月24日、東京オペラシティ・リサイタルホールで開催された。

「古往今来」として第1部が「第28回現音作曲新人賞本選会」で、第2部が「世界に開く窓」の、二部構成だった。

前半に、若い作曲家の作品を並べた。これから世界に羽ばたいて行く四作品だ。そして後半は、世界で活躍している作曲家諸氏の作品だ。その第2部では“訳あり”作品という面白い副題が付いていた。それは「もっと演奏したいのになかなか演奏できない作品」という意味だそうだ。確かに松平頼曉作品の舞台にオートバイなど、ホールだけでなく警察・消防と許可の申請も大変で、なかなか叶うことがない作品だ。私はグラーツでの演奏を直接聞かせていただいた。もう40年も前のことだ。

ジョルジュ・アペルギス、マウリシオ・カーゲルの作品に続き、南聡、山本裕之、松平頼曉作品が上演された。松平作品ではトラブルもあったようだが、演奏家の熱演で満席の会場は満足の拍手に包まれていた。

聴衆の何人かは「ゲンオン、ど〜なっちゃってるの?凄い作品と演奏で!若い作曲家の方がオーソドックスに見えますよねェ」だって。

その出品者のひとり、山本裕之氏も審査に加わり、野平一郎氏、そして審査員長に近藤譲氏を迎えて「現音作曲新人賞本選会」が第1部で開催された。その第2部に比べたらオーソドックスな作品だそうだが・・・

旭井翔一《水曜日の夢》
音に対する勘所の捉え方が優れている。コントラバスがなかを取り持ち、フルート・オーボエが紡ぎ合って行く。音と格闘したような痕跡もあり、また雲上に光が満ち溢れ解き放たれたアンサンブルもあり、以後の作品でどう発展して行くか楽しみだ。

渋谷由香《不均等音律による6つの風景2》
耳も、頭も、作品力もいい人だと思った。微妙な音の揺れを聴き分けている。しかもその中の美しさに出会っている。ただ“微分音”は従来の基音からの概念であり、自立した微分の今日的な意味が際立たないと説得力が乏しくなる。微分音を基にして楽器本来の調弦も超える世界を聴いてみたい気がした。

酒井信明《Nana》
ピッコロ、ヴァイオリン、バスーンという面白い組み合わせの作品。なかなかまとめにくいのに、雄弁な音世界が伝わってくる。聴かせられてしまうところが憎い。その手腕は大切だが、仕掛けがそんなに変わっていないことは気になるところ。点をなぞり、絵が浮かび上がる効果も面白いが、演奏により浮かぶ絵が多面的である仕掛けの方が、今後の可能性は開かれるはずだ。

松浦伸吾《霧色の虹》
揚羽蝶の羽をデザインするような音楽。ピアノを中央に、左右のヴァイオリンが羽根を拡げて歌が紡がれていく。その羽根の模様が様々に変化して美しい。微細な房が語り始める。なかなかな音楽的な腕があって頼もしい。しかしそこからの飛躍にはもう一段エネルギーがいる。それは左右の羽根が同じようで、異なり、滲んで、独自で、統一感があるようでしかし無い、など可能性が残されているように思うからだ。

新人賞は酒井作品になった。富樫賞は渋谷・松浦両氏が分け合った。また会場での聴衆による投票結果、「聴衆賞」は渋谷氏が受賞した。

レポート:坪能克裕

★本選会の模様は日本現代音楽協会facebookページにて掲載中。