佐藤昌弘事務局長回顧録—2007→2011 第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

現代の音楽展2010

現代の音楽展2010

今回の回顧録は2009年度です。この年度で印象的であった世の中の出来事といえば、私は「事業仕分け」をあげます。当時、仕分けを担当した某議員が、「二番ではダメなのですか?」と言って物議を醸しましたけれど、この議員の発言に象徴されるように、芸術団体にとっても、ますます経済的に厳しい状況となったことを実感させられた年でした。

この年度、現音では4月に、前年度に引き続いて会長に坪能克裕氏が、事務局長に私が選出されました。2009年度は芸術監督制の最終年となり、芸術監督には作曲家ではなく、演奏家を初めて招聘、国際的チェリストで、桐朋学園大学学長、サントリーホール館長の堤剛氏にお引き受け頂きました。堤氏の提唱された「人間性と共に歩む現代音楽」をテーマに、〈現音・秋の音楽展2009〉が5公演、〈現代の音楽展2010〉も同じく5公演の計10公演が2009年度の演奏会として、すでに前年度のうちに企画を確定し、各方面への助成申請も済ませていました。

ところが新年度が始まる目前の2009年3月終わりのこと、申請していた助成が不採択になってしまいました。これは本当に痛かったです。予定していた年間10本の公演数を9本にしたのも、こういった財務上の理由によっています。やがて奔走の結果、協賛のスポンサーがつくことになって一息ついたのですが、この厳しい時代を迎えて、資金面についての今後の行く先は、予断の許さぬ状況にありました。

しかし、そのような状況にありながらも、2009年度の一連の演奏会は大変充実したものでした。それはやはり、堤剛芸術監督のご活躍、ご貢献が大であったためといえましょう。本当にこの年度は、堤氏にお世話になりました。「器楽アトリエV」ではワークショップをご指導を、「第26回現音作曲新人賞」では審査員長を、「チェロアンサンブル展」では企画、選曲をして頂いた上に、本番でもトークでご出演、そして「コンチェルトの夕べ」では、ご本業のチェリストとしてご出演頂き、堤氏が50年前にソリストとして初演した、矢代秋雄作曲の《チェロ協奏曲》を、奇しくも半世紀前の初演時と同じ会場の杉並公会堂で、堤氏が学長を務められている桐朋学園のオーケストラと協演して下さり、2009年度現音公演の最後を飾って頂いたのでした。

「コンチェルトの夕べ」チェロ独奏の堤剛氏と指揮の山下一史氏

「コンチェルトの夕べ」堤剛氏と指揮の山下一史氏

芸術監督制は2004年度に始まりました。導入にあたっては、当初反対意見もありましたが、最終的には総会の承認を得て実現したのでした。2004年度の芸術監督は湯浅譲二名誉会員で、テーマは「いま、創造性へ」、2005年は故・林光名誉会員、テーマは「声の復権」、2006年度は三善晃名誉会員、テーマは「未来を紡ぐ」、2007年度は三枝成彰理事、テーマは「芸術音楽に大衆性は必要か!?」、2008年度は一柳慧氏、テーマは「コンセプトの明確化―音楽に実体を」でした。

このように各年、その年の芸術監督らしいテーマが掲げられ、年間の事業の一つの指針になりました。テーマがあることで、事業の性質を限定してしまったり、上演作品の性格の幅を狭くしてしまうのではないかという懸念もありましたが、そのような強制力、干渉力は無く、むしろ、テーマに触発された発展的な創作が行われ、多くの力作が生まれました。演奏家・堤剛氏が現音に示した年間テーマ「人間性と共に歩む現代音楽」は、この年度のみならず、われわれ現代の作曲家に対する貴重な一つの問題定義となって、今後のわれわれの創作活動に関わっていく可能性のあるものとして捉えることが出来ると思います。それくらい重みのあるメッセージと、私は一年間ご一緒させて頂いて実感しました。堤氏は次のように語っています。「私は人間という存在をもっと大きな視点で見直し、その本質そのものをも考え直すことによって、新しい形をもった「音楽」が生まれてくるのではないかと期待しているのです」(第26回現音作曲新人賞本選会・挨拶文より)

(つづく)

★次回第4回「2010年度:80周年記念事業Vol.1」

更新は3月23日(金)です。お楽しみに!

《2009年度の現音公演・全9企画》
◆現音・秋の音楽展2009
・『器楽アトリエV』
2009.10/24 sonorium

・『電楽IV~ライヴエレクトロニクスの現在』
2009.11/6 アサヒ・アートスクエア

・『アンデパンダン展第1夜』
2009.11/11 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
2009.11/12 東京オペラシティリサイタルホール

・『第26回現音作曲新人賞本選会』
2009.11/16 東京オペラシティリサイタルホール
【審査員長】堤 剛
【審査員】安良岡章夫 福士則夫(譜面審査のみ)坪能克裕(演奏審査のみ)
【新人賞】村瀬晴美

◆現代の音楽展2010

・『チェロアンサンブル展』
2010.2/14 府中の森芸術劇場ウィーンホール

・『世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”を中心に~北米特集』
2010.3/3 東京オペラシティリサイタルホール

・『箏フェスタ』
2010.3/6 洗足学園前田ホール

・『コンチェルトの夕べ』
2009.3/18 杉並公会堂大ホール