佐藤昌弘事務局長回顧録—2007→2011 第2回「2008年度:一柳慧芸術監督とコンテンポラリー・ヴィルトゥオーゾ!」

第2回「2008年度:一柳慧芸術監督とコンテンポラリー・ヴィルトゥオーゾ!」

福士則夫

会長職を満了した福士則夫理事が花束を受け取る。

2008年度に入り、4月1日に新年度の第1回の理事会が開かれ、会長、事務局長選挙の開票が行われました。その結果、5年の任期継続上限を満了した福士則夫氏にかわって、坪能克裕氏が新会長に選出されました。事務局長には私が再選され、2年目の職務を任せられることになりました。会議が終了して、福士前会長に花束が手渡され、感謝の拍手が送られた後、会議出席者一同は事務局を出て送迎バスに乗り込み、品川の船着き場へ。福士前会長の念願であった、屋形舟での新年度会を開き(もちろん会費制です)、福士前会長の労をねぎらい、坪能新会長の就任を祝って乾杯をしたのでした。

坪能氏は1990年、協会創立70周年事業の〈東京現代音楽祭〉を成功に導いた実力者です。今では、日本を代表する現代音楽演奏コンクールとしてすっかり定着した「競楽」は、この〈東京現代音楽祭〉での開催が第1回でした。坪能会長&佐藤事務局長のペアは結局、2008年以降4年間続くことになるのですが、坪能会長は実に気の利くお方で、気の利かないこと夥しい私はこれまで、どれだけ坪能会長にフォローして頂いて来たかわかりません。

福士氏は、現音の近代化に大きく貢献された方です。委員、委員長といった前時代的な呼称を理事、会長に改め、会長指名理事枠や、20代の作曲家のために準会員枠を設けたことなどはすべて、福士氏を長とする「将来計画プロジェクトチーム」からの提案から実現したものです。私は、福士氏が会長に就任された2003年から理事を務めておりますが、初めは選挙によっての選出でなく、会長指名によってでした。2004年度から2009年度まで6年間施行された芸術監督制も、「将来計画プロジェクトチーム」の発案によるものです。芸術監督制導入の意図について、福士前会長は会報で次のように書かれています。

〈現代の音楽展2009〉チラシ

〈現代の音楽展2009〉チラシ

「従来の演奏会が並列的羅列によって現音のメッセージとしては希薄ではなかったか、 その反省から個性的なメッセージを年間の演奏会に強く反映させる意図のもとに、2004年度においては湯浅譲二氏に芸術監督をお願いしました」。湯浅名誉会員に始まった芸術監督は、林光名誉会員、三善晃名誉会員、三枝成彰理事と続き、5年目にあたる2008年度で初めて会員外の作曲家となる一柳慧氏を招聘しました。一柳芸術監督の提唱した年間テーマは「コンセプトの明確化—音楽に実体を」という、いかにも一柳氏らしいものでした。一柳芸術監督には、この年の現音作曲新人賞の審査員長、競楽の審査員も引き受けて頂きましたが、さらには、企画して頂いた上にピアニストとして出演までして下さった演奏会があり、それが「コンテンポラリー・ヴィルトゥオ—ゾ!」でした。

演奏会のプログラムは当初、ヴィルトゥオーゾをテーマに公募した、会員、一般からの作品に、ジェフスキーのピアノ・デュオ曲“Winnsboro cotton mill blues”、それに一柳氏のピアノ独奏曲《ピアノ・メディア》と《タイム・シークエンス》を加えるという案で、ジェフスキー作品については一柳氏も演奏に加わって下さることになりました。しかし集まった公募作品が充分な曲数に至らなかったため、当公演の制作担当者であった私と糀場富美子理事が、一作ずつ旧作を持ち寄ることになりました。

さて一柳作品の演奏者ですが、《タイム・シークエンス》の方は作曲者のイチオシで、若手ピアニストの寒川晶子さんに決まりました。《ピアノ・メディア》の演奏は最初、木村かをりさんに依頼したのですが辞退され、結局、長尾洋史さんが弾いて下さることになりました。しかし木村さんには是非とも出演して頂きたかったので、一柳芸術監督とのデュオでの出演をあらためてお願いし、ご快諾頂けました。ところがまもなく、ジェフスキー作品を上演するにあたり、ある問題が生じて演目から外さなくてはならない事態となり、演奏をお願いしていた木村さんと一柳芸術監督に、かわりの作品の選曲をお願いしました。

やがて私のところへ一柳氏から電話がかかってきました。「この前、木村さんと食事し ながら検討したんですよ。それで結論をいいますとね、佐藤さん、あなたに新作を書いて頂こうという話になりましてね」と、こんな感じで一柳氏は話されまして、当時、私は他に2曲委嘱を抱えていたのですが、せっかくのご提案に、これはとても断れないと思い、お引受けしたのでした。演奏会では最後の演目として、木村さんと一柳芸術監督に初演して頂いて、とても貴重な思い出となりました。

佐藤昌弘《パサージュ II 》

佐藤昌弘《パサージュ II 》

ところで2008年というと、9月にリーマンショックがありましたよね。この前後から時代は、世界的に厳しい経済状況の趨勢となりましたが、坪能会長は2008年度第2号の会報で、現音もまた例外ではないと述べました。しかし、このような状況だからこそ、会員への協力を強く呼びかけたり、現音をサポートして下さる「維持会友」の入会をお願いするためのパンプレットを作って各方面にアピールしたりもしました。そして2008年度末のこと、翌年の事業を進める上で大きな打撃となる知らせが飛び込んできたのでした。

(つづく)

★次回第3回「2009年度:初の演奏家芸術監督・堤剛氏」

更新は3月16日(金)です。お楽しみに!
【2008年度の現音公演・全10企画】

◆現音・秋の音楽展2008

・『第25回現音作曲新人賞本選会』
2008.10/17 東京オペラシティリサイタルホール
【審査員】一柳慧(長) 金子仁美 野平一郎 【新人賞】横井佑未子 【冨樫賞】秋元美由紀

・『電楽III』
2008.10/19 世田谷美術館

・『アンデパンダン展第1夜』
2008.11/3 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
2008.11/6 東京オペラシティリサイタルホール

・『第8回現代音楽演奏コンクール“競楽VIII”本選会』
2008.11/30 けやきホール
【審査員】松平頼暁(長) 一柳慧 甲斐史子 中川俊郎 野口千代光 野口 竜  藤本隆史 吉村七重
【第1位・第18回朝日現代音楽賞】増本竜士

 

◆現代の音楽展2009

・『唱楽III〜児童合唱の領域』
2009.2/1 東京文化会館小ホール

・『サクソフォーン・フェスタ』
2009.3/1 洗足学園前田ホール

・『世界に開く窓〜ISCM“世界音楽の日々”を中心に〜北欧特集』
2009.3/5 東京オペラシティリサイタルホール

・『コンテンポラリー・ヴィルトゥオ—ゾ!』
2009.3/6 東京オペラシティリサイタルホール

・『MoVEヴォーカルアンサンブル演奏会』
2009.3/8 東京オペラシティリサイタルホール