佐藤昌弘事務局長回顧録2007→2011〜第1回「2007年度―突然の就任、三枝成彰芸術監督と共に」

第1回「2007年度―突然の就任、三枝成彰芸術監督と共に」

事務局長:佐藤昌弘

この3月いっぱいで、私=佐藤昌弘は現音の事務局長職を退くことになります。といっても、別に不祥事を起こしてしまって辞めさせられる訳ではありませんよ!誤解なきよう(笑)。私は、福士則夫氏が会長であった2007年度から事務局長を務めており、今年度は5年目にあたるのですが、協会の定款で、同じ会員が会長、事務局長を連続して務められる期限は5年まで、と定められているからなのです。

では、そもそも会長と事務局長は、いかにして選ばれるかといいますと、まず年度末に理事選挙というのがありまして、200名強の現音会員から18名の理事が選ばれます。さらにその18名の理事から互選により、会長と事務局長が年度初めに選ばれるという次第です。18名の理事と、その中から選出された会長と事務局長の任期は1年ですので、現音は毎年公正に選挙を行なって役員を選んでいるのです。

先ほど私は、「2007年度から事務局長を務めており」と書きましたが、正確に詳しい事情を話しますと、実は2007年度の初めの時点では、事務局長は私でなくて小鍛冶邦隆氏でした。小鍛冶氏は2003年度から事務局長を務められていて、2007年度4月にも事務局長に再選されたのですが、6月になり、一身上の都合ということで突然に現音の退会を申し出、同月の理事会での審議の結果、氏の退会は承認されたのです。

急にぽっかりと空いてしまった事務局長ポストでしたが、こういう不測の事態も見据えて定款というのは出来ているんですねぇ。「役員を辞任する者のあるとき、当該役員の選出された選挙における次点者で補充し、その任期は前任者の任期残りとする」とあります。この規定によって、2007年度事務局長選挙の次点者であった私に、事務局長への就任が要請されることになり、退会した前任の小鍛冶氏の任期残りである2007年度末まで、私は後任を6月22日付で引き受けることにしたのでした。なにせ火急の事態でしたから、辞退出来る余地なんかなかったですよ。

それにしても正直面喰いましたねぇ、この急展開には。理由はともあれ、前任者がいなくなり、引き継ぎもないままに、協会のスポークスマンにして金庫番で仕切り役である事務局長を急に任せられることになった訳ですから。突如圧し掛かってきた責任の重さに、当初は結構気が滅入ったものでした。ただ、2007年度の決算と次年度の予算、その2カ年の事業計画が既に総会での承認を得ていたことは、せめてもの救いでしたが…。

〈現代の音楽展2007〉

現音は2004年度から2009年度まで芸術監督制度を施行しましたが、協会創立75周年であった2007年度の芸術監督は、協会理事の三枝成彰氏でした。そして三枝芸術監督の掲げた年間テーマは「芸術音楽に大衆性は必要か!?」で、大衆性と芸術性の乖離を、芸術音楽の作り手である私たちはどうとらえるか?ということが狙いとのことでした。

打ち合わせのため、六本木にある三枝氏の事務所に伺ったのは8月6日のことです。この日に、名誉会員の松村禎三氏が78歳で逝去されました。松村名誉会員は生前に現音の書記長(現在の事務局長職)を務められたこともあり、私の師でありました。日本の作曲界はまた一人、かけがえのない偉大な作家を失ったのでした。

三枝芸術監督との打ち合わせについて話を戻します。年度内の公演の一つに、当初は小鍛冶氏がプロデュースする予定だったところを、代わって急遽私がプロデュースすることになった「オペラ・プロジェクトII」と題するモノ・オペラの演奏会があり、その公演の演出家手配のため、三枝芸術監督がアートクリエイションという舞台公演製作会社に、私と打ち合わせをしているその場で電話をかけて下さいました。「もしもし、三枝です。現音のモノ・オペラ公演について相談したいんですけどね。その予算が、いいですか、驚かないで下さいよ、たった”ピー”万円しかないんですよ。”ピー”万円だけ!」大体こんな感じで話されていましたね。モノ・オペラとはいえ、あらためてこの世界では”ピー”円がはした金であることを実感させられました。

三枝木宏行作曲《赤ずきん》

後日、アートクリエイション社を訪ねますと、小栗哲家さんという方が対応して下さいました。この方、ナント、あのイケメン人気若手俳優の小栗 旬君の実のパパなんですよ!そして旬君のパパから、飯塚励生さんというアートクリエイション社専属の若手演出家を紹介して頂きました。お名前はイイヅカレオと読むのですが、レオさん、二ューヨーク生まれのニューヨーク育ちで、実にナイスガイなんですよね。一緒に仕事していてとても気分がいい人なのですが、このナイスガイ、「オペラ・プロジェクトII」の本番も随分と近くなった頃になって、私に無茶な注文をしてきました。「佐藤さん、医者の役で舞台に立ってよ」―エエーッ!学芸会、文化祭ではもっぱら音楽担当で、演技なんかしたことないのに!と戸惑っていた私は、ナイスガイに結局上手くおだてられて役者デビュー(?)をしてしまったのでした。私がチョイ役で出たのは、三枝木宏行会員の作曲したモノ・オペラ「赤ずきんちゃん」のラストシーン。老いた赤ずきんちゃんを車椅子にのせて退場させていく医者の役で、セリフも歌もなし。それが、あとになって散々周りからひやかされる羽目に―「事務局長、白衣、似合ってたよ!」

(つづく)

★次回第2回「2008年度」

更新は3月9日(金)です。お楽しみに!

 

2007年度の現音公演(全10企画)】

◆現音・秋の音楽展2007

・『器楽アトリエIV
  2007.10/21 洗足学園音楽大学講堂

・『第24回現音作曲新人賞本選会』
  2007.11/1 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第1夜』
  2007.11/2 東京オペラシティリサイタルホール

・『演奏家による座談会』
  2007.11/4 東京オペラシティリサイタルホール

・『アンデパンダン展第2夜』
  2007.11/4 東京オペラシティリサイタルホール

◆現代の音楽展2008

・『現代合唱の領域II~田中信昭 第15回朝日現代音楽賞受賞記念演奏会』
  2008.2/17 東京文化会館小ホール

・『響楽II~若手演奏家&音大生オーケストラによる現代作品ワークショップコンサート』
  2008.3/3 紀尾井ホール

・『世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”を中心に~日本からの発信』
  2008.3/7 東京オペラシティリサイタルホール

・『オペラ・プロジェクトII~モノ・オペラ二題』
  2008.3/15 東京文化会館小ホール

・『フュージョン・フェスタ』
  2008.3/16 洗足学園前田ホール